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実写版「ボルテスV」を見ていたら、劇場版「マジンガーZ」が見たくなった話

実写版「ボルテスV」を見ていたら、劇場版「マジンガーZ」が見たくなった話

45年の時を越えて生まれたオリジナル長編

放送も後半戦真っ只中の「ボルテスV:レガシー(原題:Voltes V: Legacy)」を見続けていて、ふと見返したくなった映画があった。永井豪原作のスーパーロボット作品の金字塔「マジンガーZ」。その2018年に公開された『劇場版マジンガーZ / INFINITY』だ。

1972年~74年に放送されたTVアニメの最終話から10年後を描いたオリジナルストーリーで、復活した悪の科学者Dr.ヘル率いる機械獣軍団と、兜甲児が操縦するマジンガーZの新たな戦いが、甲児をはじめおなじみのキャラクターたちのドラマを交えて紡がれる。

詳しくは、公式の解説動画を観てもらえたらと。

なぜ見返したくなったかと言うと、「ボルテスV:レガシー」と『劇場版マジンガーZ / INFINITY』に、“近いもの”を覚えたからだった。“近いもの”と言うとあまりに漠然過ぎるので、見返して言葉に起こしてみたいと思う。

掘り下げられた人間ドラマに引き込まれる

上映時間94分の本作は、導入と中盤、そしてクライマックスに熱いバトルシーンが描かれ、その間は人間ドラマが掘り下げられる。もちろん、3DCGでハイクオリティに描かれるロボットアクションは大スクリーンで鑑賞すべき見どころだが、人間ドラマに心揺さぶられる体験も本作の大きな魅力である。

このドラマが10年後という設定もあって、オトナな物語だったりする。

相思相愛で交際していた甲児とさやかだが、仕事の多忙さもあってか結婚へ踏み出せず、その関係は冷え込んでいた。甲児の研究を少女型のアンドロイド、リサがアシストするようになったのも何というかバツが悪い。

そんな2人を心配するのが、グレートマジンガーの操縦者、剣鉄也と結ばれたもう一人のヒロイン、炎ジュンだ。踏み出せない甲児に「人生にリハーサルはないんだよ」と諭す彼女は、もうすぐ子供が生まれる身。そんな大事な時期に、夫の鉄也がグレートマジンガー共々Dr.ヘルに捕らわれてしまう。

ジュンはビューナスAで救いに向かおうとするも身重な体では操縦できない。「まさかお腹がつかえてフットペダル踏めないとは思わなかった…」と涙するジュンに、「(お腹の)この子が止めてくれたんだよ」と諭すさやか。

一方、科学者になった甲児は戦いから長らく離れていた身で、機械獣軍団の襲来でも前線には立てすにいた。世間には「役立たず」ど呼ばれされる彼を、今はラーメン屋を営むボスは、彼の心中を思い、ただ「お前と、お前のやることを信じている」と告げる。

やがて、鉄也を助ける決意を固めた甲児は、さやかに「戦いが終わったら聞いてほしいことがある」と思いを告げて出撃。さやかは「嫌だよね。惚れた弱みってのはさ」と漏らしながら、彼の戦いを見守る。

――端折ってはいるが、こんな感じの人間模様が描かれる。

これを当時のTVアニメで見せられたら、子供たちは「ポカーン」としてしまうだろう。しかし、本放送から45年、再放送で30年前後が経過し、大人になった当時の子供には、きっと思いきり心を掴まれたのではないだろうか。「そうだ。彼らも僕らのように成長して、こういう人生があったんだ」と。

子供の頃、夢中に物語のその後を、大人目線で楽しめる。アラフィフになって、こんなご褒美のようなドラマが見られうなんて思いも寄らなかった。少なくとも僕はそう思った。

この“世代に向けた物語”が「ボルテスV:レガシー」との大きな共通点だと感じている。「ボルテスV:レガシー」は、その後の物語ではなくリブートであるが、人物描写を大人目線でとことん掘り下げている。

アプローチは違えど、2つの物語はいずれも、原体験を大切に育ったクリエイターたちが紡いだ、“大人になって見たかった、彼らの物語”であるのだ。

「それじゃぁ若い人たちに見てもらえない」「新しい客層を取り込めない」という不安の声もあったかもしれない(なかったかもしれない)。そういう不安を突っぱねて、古の作品をここまでストーリー性を大切に紡ぎなおすことが、原題ではどれだけなことか。

日本が、本気で実写化する未来は来る?

こうした物語が、当然ながらオリジナルに基づいた世界観できちんと描かれた(映し出された)ことも、大きな魅力であり、2つの作品に通じる“近いもの”だと思う。

作画はタッチをブラッシュアップしつつ、現代風でありながら当時のように親しみやすいもの。マジンガーZのデザインもほどよい処理を加えられ、それでいてカッコ良く、「超合金魂」がほしくなると思わせる存在感を放つ。

要は、違和感を覚えるような現代向けアレンジはされていない。この感じが、世代にはとても受け入れ易い。これが今の10~20代には受け入れられにくいかも…と書こうとしたけど、よくよく考えたら「スーパーロボット大戦」シリーズで世代を超えて親しまれているので、それは杞憂なのかな。

「ボルテスV:レガシー」は、この要素を実写でとことん貫いているのが素晴らしい。ビッグファルコンのビジュアル、キャラクターの出で立ちから雰囲気まで、そのこだわりも半端ない。そして、ボルテスVのデザインを最初見たときも、「INFINITY」版のマジンガーZに“近いもの”、存在感というか佇まいを感じさせられた。だからこそスッとそのカッコ良さに魅せられたのかも。

ここからは仮の話というか願い。

もしも「ボルテスV:レガシー」に負けない実写ロボット作品を日本が作るとしたら、それは絶対「マジンガーZ」で実現させてほしい。スーパーロボットの原点にして頂点の作品でこそ、リアル世代の思いを大切して成し遂げもらえたらと強く、強く願う。

「新しい世代に向けた新しいマジンガーZ」とか、特定のクリエイターの“自分の世界観”に寄せる強烈な「◯◯・マジンガーZ」とか否定するつもりはないけど、そういうのの前に、「これが大人になった僕らが見たかった、彼らの物語」と心震わせられる機会がほしい。毎朝7時半からの再放送を見て育った昭和50年男は思うのです。

『劇場版マジンガーZ / INFINITY』はU-NEXTで視聴可能。「こんな甲児やさやかの未来が見たかった」と感慨深くなるドラマからの、吉川晃司の楽曲で締めくくる流れの余韻がたまりません。

U-NEXT|劇場版 マジンガー Z / INFINITY

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