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『銀河鉄道999』に感じ取ったもの、松本零士先生に諭されたこと

『銀河鉄道999』に感じ取ったもの、松本零士先生に諭されたこと
昨年、4Kリマスター版上映時に購入した復刻版パンフレット。右は続編『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』のもの

限りある時を生きる意味を教えてくれた『999』

松本零士先生の訃報から一週間経った3月6日、YouTubeにて映画『銀河鉄道999』(1979年)の期間限定公式配信が始まりました。

機械伯爵の人間狩りで母を殺された少年・星野鉄郎は、母親に似た謎の女性メーテルに導かれて銀河超特急999号に乗り、アンドロメダの彼方、機械の身体をくれる星へ旅立ちます―。本作は、同時期に放送されていたテレビアニメよりも早く物語の結末を描き、79年の邦画配収第1位という大ヒットを記録しました。

少年が大人になるまでの限りある時間、今の一瞬を鉄郎は熱く駆け抜ける―。そんなフロンティア精神に満ちたストーリーと、メーテル、車掌、キャプテンハーロック、エメラルダスといった人気キャラクター総登場の展開に魅せられます(なお、私は公開当時、幼稚園の年少組で観ることは叶わず。小1の頃だったかテレビで初鑑賞)。

今回は、この機会に『999』を初めて観る方に向けて、私なりにに感じる“3つの魅力”をお話させていただきます。

まずは、物語のテンポ。

『999』は星々を旅するシンプルな展開に、個性豊かな登場人物との出会いと別れがほどよく繰り返され、壮大なスケールでありながら物語がとてもテンポ良く進みます。また、良い意味で細部や設定に目を向けさせる作りでもなく、無駄なく、無理なく世界観にスッと浸れます。もしも今、同じようなSFアドベンチャーの映像化が企画されたなら、アニメ・実写を問わず三部作くらいに引き伸ばされ、登場人物も倍以上に増えているでしょうね。

昨年、4Kリマスター版上映時に購入したミニポスターより、主な登場人物たち

次に、交響詩としての音楽。

本作ではオーケストラ演奏による楽曲がシーン毎に作られ、その一曲一曲が登場人物の心象や状況を見事に表します。松本先生が元々19世紀の音楽家ワーグナーに心酔していたという背景もあったのでしょう。それらは時にクラシカルに、時に近未来的に奏でられ、鑑賞後に通して聴けば、テンポの良い物語が脳内で鮮やかに再現される…まさに“交響詩”と呼ぶに相応しいクオリティなのです。ここ近年、映画にあわせて交響楽団が楽曲を生演奏する本作の“シネマ・コンサート”が再演されるほど好評なのも納得です。

シネマ・コンサートの公式ハイライト映像。なんとラストシーンも収録されているので未見の方はご注意のほど

その音楽の極めつけこそが、ゴダイゴによる主題歌「銀河鉄道999」。ラストシーン後に聴いた時、本当の意味で歌詞やメロディーに込められた思いに触れられるはずです。

もう一つは、“黒”という色の味わい。

これは昨年公開のドルビーシネマ(4Kリマスター)版を観て、40年越しに実感した魅力です。本作ではあらゆる要素に黒が配色され、それぞれに異なる効果や意図が鮮明に感じ取れます。近未来のビル群の光を際立たせ、スラムの人々の心象を投影する。機械伯爵の城の不気味さを醸す一方、黒尽くめのハーロックには強い意志を想起させる…。枚挙に遑がない黒の味わいが、リマスター版では際立ちます。

ドルビーシネマ版の公式予告では、上雷の映像との比較も

ひよっ子編集者の愚を諭してくれた先生

こうした魅力をぜひ楽しんで…と締めくくるべきなのですが、今回はもう少しだけ余談のような本題を。私が今の仕事に就いて1年目、2002年の話です。

当時『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)の日本上映が迫り、私はある媒体で、同作の魅力を紹介する企画を担当しました。今や説明不要の大ヒット作も、当時はまだ馴染み薄く、例えば「RPGの原点的な作品」とか何かしらの切り口を考え、識者に映画を観てもらい感想を伺い記事化するミッションで、私が取材候補の一人に挙げたのが松本先生でした。

先生はワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」を題材に、ハーロックやメーテルが活躍する漫画を執筆されていて、「指輪モチーフの映画なら興味を持ってもらえるはず」と、浅はかにも思い込んでしまったのです。

先生の事務所へお電話すると、初手からご本人が受けられ、私の緊張気味の説明を「そうですか」「そういう映画があるんですか」と一通り聞かれた上で、「今は忙しくてね」「私の作品とは違いますから」という趣旨でやんわりとお断りされました。

そんな思い付きの依頼、受けるわけもない。本当に何考えていたんだ自分…。

それでも私は一方的な焦りから懇願し続けても、先生はしびれを切らすことなく、最後まで丁寧にお応えいただきつつも「できません」と静かに、それでいて力強くキッパリ。そうして放つ言葉を失った私は、先生の対応にお礼を述べつつ電話を切りました。

それから20数年。あの思い付きの愚を胸に刻みつつ、いつか先生に喜んで取材を受けていただける機会を夢見る間に、先生は時の彼方へ旅立たれたわけです。限りある時間、今の一瞬を懸命に生きることを、先生の作品で学んでいたはずなのに…。

今の自分にできることは、『999」の魅力を自分なりに語り伝えること、そして先生への感謝を記すのみです。先生、その節は本当にありがとうございました。『999』は永遠に心に刻まれる名作です。

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