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土曜の朝を開拓!20周年を迎えた「セーラームーン」&「グランセイザー」【後編】

土曜の朝を開拓!20周年を迎えた「セーラームーン」&「グランセイザー」【後編】

今から20年前の2003年10月4日、土曜の朝に始まった実写版「美少女戦士セーラームーン」と「超星神グランセイザー」。特撮史を語る上で忘れてはならない2大傑作番組を紹介するコラムの後編です。

前編はこちらから

展開も予測不可!? 12人のヒーロードラマ爆誕

東映が特撮テレビ番組を年2本ペースで製作する一方、東宝は「ゴジラ」シリーズを映画などで展開しているものの、特撮テレビ番組を継続的な製作はなかなかなく、その稀な代表例が「超星神グランセイザー」です。同番組は2021年に東宝より“DVD名作セレクション”として廉価版ソフトが売、また、DMM TVなどでも有料配信されています(リマスターBlu-ray、出ませんかね…)。

Amazon商品紹介より)

『ゴジラVSビオランテ』(89)などの特技監督・川北紘一が特撮を手掛け、「あぶない刑事」シリーズの大川俊道が脚本で参加、「電脳警察サイバーコップ」(88-84)、「七星闘神ガイファード」(95)といった過去の東宝特撮番組の村石宏實がパイロット演出を担当。そんな精鋭たちによる意欲作は、既存のものとは一味も二味も違うヒーロー像とストーリーを試行錯誤したのでは?という独自路線で視聴者を魅了しました。

なかでも斬新だったのは、ヒーローを“十二星座”をモチーフに⒓人登場させたこと。グランセイザーは炎(赤・朱)・風(紫)・大地(黄・橙)・水(青)の4属性・4色系統の“トライブ”に分かれ、それぞれのトライブに3人ずつ戦士(呼称は、セイザー〇〇〇〇)が配される“3人チーム×4”という構成で、トライブ単位で行動することが多いのが特徴です。

この内、第1クールでは火。風、大地のトライブの9人が覚醒、トライブ同士で戦う展開になるのですが、実は彼らを戦わせた黒幕が存在し、これを知った9人は徐々に結束。トライブ毎に巨大変形ロボ“超星神”を駆使し、強大な敵との決戦に臨みます。

続く第2クールでは、水のトライブの合流と新たな敵“インパクター”の暗躍、さらにインパクターに操られた第5の超星神を奪還するまでの激闘が繰り広げられます。こうした既存のシリーズにはなかった展開が、新鮮かつ鮮烈だったのです。

伝説の名(迷)演出に魅せられてしまった

「グランセイザー」放送開始直後の1~2話では、超星神や12人のヒーローが集う展開は示唆されるものの。物語の全体像がまだ掴めず、特撮ファンの注目・話題は、実写版「美少女戦士セーラームーン」寄りだったかなと振り返ります。これは明らかに「セーラームーン」が華やかだったことと、配信なんて無い時代で地上波ネット局の数の差も「グランセイザー」には今思えばアドバンテージだったかと。

そんななか、特撮ファンの心をつかむ(つもりはなかったかもですが)第3話のある演出が、インターネット(当時は主に2ちゃんねる)で話題になります。

主人公でもある“炎のトライブ”の弓道天馬/セイザータリアス(演:瀬川亮)が操縦する超星神ガルーダと、彼を敵と誤認する“風のトライブ”の伝通院洸/セイザーレムルズ(演:芹沢秀明)が操縦する超星神ドルクルスが空中で追撃戦を展開。そこでドルクルスの放った光線がガルーダに命中せず眼下のダムに直撃。ダムは破壊され水が木々を薙ぎ楽し下流へ溢れ出します。

このヒーローにあるまじき凡ミスに洸は「しまった!」と一言。そして、失態による被害を防ぐ行動へ…と思いきや追撃を続行します。映像では描かれませんが、きっと流域の皆さんはいきなりの大洪水に大慌てだったでしょう…。いいのかそれで?グランセイザーのやることじゃぁない!

そんな登場人物たちの豪胆さは以降のエピソードでも見られ、ツッコミどころとなりつつも、意外性と驚きに満ちたストーリーテリングと、まるで痛快な舞台劇の熱狂を最前列で浴びせられるような感覚に魅せられる契機にもなり、「グランセイザー」は日増しに注目されていったわけです。

他にも海外の武侠アクションものを彷彿させる激しいアクション(特に、ヒロインの一人・獅堂未加/セイザーミトラス役の清水あすかは護衛・護身術「鳳龍院心拳」の17代目宗師で、キレのある打撃や蹴りを披露)、平成「ゴジラ」シリーズ仕込みの豪快かつ破壊的な特撮、そして主演の瀬川亮、清水あすか、宿敵インパクターロギアを演じた阿部進之介らの荒々しくも熱量に満ちた演技、赤星昇一郎、工藤俊作、油井昌由樹ら個性派俳優の存在感あふれる助演も見どころでした。

ちなみに「グランセイザー」のキャストには、当時グラビアで活躍中だった磯山さやかがヒロインの一人、早乙女蘭/セイザーヴィジュル役で出演。劇中でも水着を披露したほか、終盤の第4クールでは重要な役回りを演じています。

「セーラームーン」の沢井美優や北川景子と並び、同時期に活躍した磯山さやかも最前線でバリバリ活躍していることも、当時のファンとして本当に嬉しいですよね。しかも磯っち、今年は映画主演も果たし、さらに今月には水着写真集を発売するとか!

時代に早過ぎた?2003年〜06年の潮流が遺したもの

今年、講談社より発売されたシリーズムックは、タイトルから「グランセイザー」が「ゴジラ」の流れをくむ東宝特撮シリーズであることを色濃く示している。

「グランセイザー」放送開始から2か月後、東宝は『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(03)を劇場公開しました。実は同作の登場人物が、公開直前の「グランセイザー」放送回にゲスト出演し、その後も番組には映画との繋がりを想起させる名称が登場するなど、クロスオーバー的な試みが感じ取れます。

また、番組終了後に公開された映画『劇場版 超星艦隊セイザーX 戦え!星の戦士たち』(05)では、「グランセイザー」以降“超星神シリーズ”として放送された「幻星神ジャスティライザー」(04-05)、「超星艦隊セイザーX」(05-06)、さらに映画『海底軍艦』(63)に登場した戦艦を想起させる戦艦“轟天”との共闘が描かれました。

『劇場版 超星艦隊セイザーX』公開当時のパンフレット。総勢18人のヒーローが一堂に結集する早過ぎた“ユニバース”ヒーロー映画

こうした演出は各々単発で終わり大きな話題にはなりませんでした。しかし、20年近く経て、さまざまなアメコミヒーロー、そして東映特撮ヒーローがクロスオーバー、共闘することが常となった昨今を思うと、あの時のチャレンジがもっとグイグイ進められていたら、今以上に特撮、ヒーローエンタメは多様に進化していたかもしれません。

実際、2003年の「グランセイザー」「セーラームーン」放送後の数年は、超星神シリーズの続編2作品、「セーラームーン」の後番組として登場した「ウルトラマンネクサス」(04-05)以降の「ウルトラマン」シリーズ、さらに雨宮慶太監督による「牙狼〈GARO〉」(05-06)、VFXを白組が手掛けた松竹初参入の特撮ヒーロー番組「魔弾戦記リュウケンドー」(06)も始まりました。その結果、2006年は特撮TV番組が最大で週6本放送され(1~3月)、映画会社3社と円谷プロ製作の番組が揃い踏み(1月~6月)という奇跡が起こったわけです。

時は流れて20年。東宝は映画『ゴジラ-1.0』を間もなく公開します。製作は「リュウケンドー」にも参加した白組。主演は03年、「爆竜戦隊アバレンジャー」にゲスト出演していた神木隆之介。いろいろこじつけ感満載ですが(笑)、特撮の最前線へ至るルーツが“あの頃”に培われたのかなとも思ったりします。

そんなヒストリーに浸りつつ、ライダーでも戦隊でもウルトラマンでもない、“もうふたつの特撮番組”の色あせぬ魅力を味わってもらえたらと願うわけです。

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