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そごうも、ジャスコも、映画に刻まれる在りし日の百貨店メモリー
失われた風景の記録として見る映画
その昔、渋谷駅の上空には”ロープウェイ”が走っていたという。
”空中ケーブルカー”とも呼ばれたそのロープウェイ「ひばり号」は、国鉄渋谷駅の西口・東口両側の商業施設の屋上を結び、山手線の上空を往復していたという。今では想像も難しい風景があったことに驚かされる。
「ひばり号」の写真や映像はあまり残されていないが、当時公開された映画に僅かながら登場するようだ。当時のデートシーンといったところか。
昭和26年(1951年)から僅か2年ほど、渋谷駅の上空を往来していた空中ケーブルカー(ロープウェイ)「ひばり号」。上原謙、丹阿弥谷津子共演の映画『東京のえくぼ』で、その姿をちょっぴり見ることができる。https://t.co/8HPFc8nYSv
— おーば@編集・企画の人 (@OverOsgt) May 24, 2024
映画に映る風景が再開発などで姿を消すことで、映画そのものが貴重な映像資料になる。何気なく観ていた作品に記憶に刻まれた風景が映り込み、ふとノスタルジックな気分を呼び起こされる――。そんな体験をする機会もあるだろう。
消えゆくランドマーク、昭和の百貨店文化
筆者の地元・千葉県柏市で2016年まで営業していた「そごう柏店」。柏駅東口にそびえ建つ巨大な店舗は閉店後も地域のランドマークとして残り続けていたが、6月より解体工事が始まった。
「そごう柏店」は今から51年前の1973年(昭和48年)に、「お城のような百貨店」というふれ込みで誕生。国鉄柏駅(当時)東口とは、同時期に開発された日本初のダブルデッキ(ペデストリアンデッキ)で結ばれていた。
1Fは中央にヨーロピアンな雰囲気の泉(水場)が供えられ、グランドピアノの演奏が優雅な空間を演出。2F入口横では「東京ディズニーランド」のアトラクションの意匠を取り込んだ大時計が時を告げる。毎時「イッツ・ア・スモールワールド」の人形たちが登場する非常に凝られてからくりは何度見ても新鮮で、子どもも大人も心を躍らされたもの。
ガラス張りの展望エレベーターで駅前の風景を楽しみ(あるいはヒヤリとしながら)上に昇れば、9Fまではメンス、レディス、キッズ、生活用品、おもちゃ、時計・宝飾と売り場を展開。10Fからは飲食街で、百貨店における飲食文化の象徴「大食堂」も12Fに。ちなみに地下1Fの食料品売り場では「回るお菓子売り場」が子どもたちをときめかせた。
最上階・14Fは、建物をランドマークとしてあらしめた回転展望レストラン。円盤のような360°ガラス張りの空間が1時間で一周する。遠くは東京スカイツリー、筑波山、そして街の風景をぐるりと望む。そこは、どこに座ってもリッチな特等席。
回転展望レストランの下で、まさかのバイオレンス
そんな百貨店の歴史・文化を刻み、消えゆく建物の在りし日の姿が、意外な映画に刻まれている。
『パッチギ!』(2004年)の井筒和幸監督が手掛けた『ヒーローショー』(2010年)は、営業当時のそごう柏店がロケ地として登場し、回転展望レストランの姿がパッチギ…もとい、バッチリ映っている。
そうそう。実写版セーラームーン最終回後の特別版での結婚式シーンのロケ地は、柏玉姫殿。タイパにお怒りの井筒監督は『匕ーローショー』でそごう柏の屋上で撮影を行っているから、『長全寺』もそこに含めて「柏の3大ヒーロー映像作品」認定でも委員じゃないかな(強引)https://t.co/5211Om3Mr1
— おーば@編集・企画の人 (@OverOsgt) January 21, 2023
お笑いコンビ・ジャルジャルの後藤淳平と福徳秀介が主演を務めた本作は、そのタイトルからは全く想像もつかない”青春バイオレンス”映画である。
気弱な専門学校生ユウキは、先輩の剛志の紹介で戦隊モノ「電竜戦士ギガチェンジャー」ショーのアルバイトで悪役を演じることに。ある日、バイト仲間でギガレッドを演じるノボルが剛志の彼女を寝とったことが発覚、二人はショー本番中にガチ殴り合いに発展。
その後、収拾がつかなくなった彼らは恐喝や報復を仕掛け合い、応酬は次第にエスカレート。若者たちの暴走は、やがて取り返しのつかない事態に――。
この暴力の連鎖の発端となるヒーローショーのシーンが、そごう柏店で撮影されている。厳密には、シーン自体は、そごう柏プラザ館(スカイプラザ・現在のビックカメラ柏店)屋上で撮影され、その背後にそごう柏店本館・回転展望レストランが映り込む。
先述の通り『ヒーローショー』は、あの井筒監督によるバイオレンス映画。該当シーンでは、そごう屋上でのヒーローショーで若者がガチで殴り合い、観客の”よいこのおともだち”たちはあまりのトンデモ事態に泣きわめく――。この後エスカレートする狂気の幕開けにして、どことなくシュールさも漂う場面で、そごう柏店に目が行く…という映画の観方もどうかとは思うが…。
とはいえ、解体が本格化し建物が跡形もなく失われてしまったら、そうしたバイオレンスシーンであってもノスタルジックな思いを呼び起こされることもあるだろう。
映画のメモリアル企画で、”ジャスコ”復活!?
ちょうどこの記事を書いているとき、茨城県下妻市が舞台の大ヒット映画『下妻物語』(04)の公開20周年企画として、イオンモール下妻店にて、(前身である)ジャスコ下妻店の看板が掲げられて復活し、SNSで話題を集めた。
関鉄バス×ジャスコ下妻店さん
— 関東鉄道株式会社【公式】 (@kantetsu_info) May 26, 2024
16年ぶりの並びが実現!!懐かしい😊#ジャスコ下妻 pic.twitter.com/8HYNxlwOBc
公開当時、ジャスコだった同店は土屋アンナ演じる地元のヤンキー娘イチゴの特攻服の購入先として言及されている。と、いうことで現地で催されたイベントには土屋アンナも当時の衣装で登場し、観客を大いに沸かせた。
下妻物語トークショーに土屋アンナ乱入‼️で会場ハイテンション❤️#下妻物語 #土屋アンナ #嶽本野ばら #ジャスコ下妻 pic.twitter.com/tnUfNfl2zZ
— サヌマー | 下妻市公式まちメディア (@SanumaTimes) May 26, 2024
そごうにしても、ジャスコにしても、地域に根付いた商業施設がこうして長く愛され、人々の思い出に刻まれること。その思い出と記憶を映画は記録し続ける。
(余談)ひばり号が登場するもう一つの映画
ちなみに、最初に触れた渋谷駅をまたぐ「ひばり号」についてだが、「SHOGUN 将軍」に出演の女優・洞口依子とミクスド・メディア・アーティストの石田英範が組んだウクレレユニット「PAITITI」が主演した音楽ドキュメンタリー映画にも登場している。
こちらは当時の映像ではなく、造型師でもある原口智生監督がミニチュアで再現。実際のカラーリングも確認できる。
アニメーション、CGで再現する手法もあるが、こうした造型物によって映像で甦る…というのも作り手の想いや熱量が乗っかって表現されているようで、心が弾む。