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99%柏市で撮られた“僧侶エンターテインメント” 『長全寺』に見る“地産地消”映画の可能性
12月24日、異教徒の祝祭の日に地元で催された初日上映の舞台挨拶は、キャスト&スタッフ、関係者が登壇するにこやかなワールドプレミアに。
檀家の“寄進”から生まれた映画
2022年の年の瀬、ちょっとユニークな映画に出会いました。タイトルは『長全寺』。その名の通り“お寺”の映画です。
長全寺は、天正3年(1575年)、現在の千葉県柏市に建立されました。柏駅近くの立地で地元の人々にも親しまれている由緒ある寺院でお勤めに励む僧侶たちのドキュメンタリーかな?と思いきや、この寺で約450年間受け継がれてきた“裏のお勤め”の物語が繰り広げられます。
その裏のお勤めとは、争いごとや悪事に巻き込まれた柏市民をお経と法力で救う存在、その名も“説法頭巾”! 都市伝説のようなヒーロー稼業のために修行を積み、柏市民に寄り添いながらも、自らも悩みを抱き葛藤する僧侶たちの姿が描かれます。
30年前と現代を交錯させた物語で、住職や僧侶たち、周辺人物の成長や変化を観ていくうちに「そういうことなのか!」と唸らせる展開で、ドラマ性、娯楽性も秀逸なのですが、「どうしてこのような作品が生まれたのか?」という逸話を知ると、より親しみが湧きます。
事の始まりは、長全寺の檀家である印刷会社の社長のある思いでした。祖先の代から柏で暮らし、時代毎に家族に寄り添ってくれた寺への感謝を、何らかの寄でと考えた社長は、何かの像や塔ではなく“映像”を寄進できないかと思いついたそうです。
そこで社長は、縁のある俳優でお隣の我孫子市出身の川本淳市に相談を持ち掛けます。かつて地元ロケの映画『ポチの告白』(09)への出演や、柏市、我孫子市、流山市で催された東葛国際映画祭を通じ映像での地域貢献に積極的だった川本は、社長の思いを汲んで自ら初監督を務め、クラウドファンディングで見事資金を獲得、映画を完成させました。
脚本は、『陰陽師』(01)や「牙狼<GARO>」シリーズの江良至が担当。温厚な住職役の川原英之をはじめ主な役者陣はもちろん剃髪。超絶技で悪を撃つのではなく、あくまで説法と護身術で強盗や恐喝を働く人々や悪徳業者を諭す(時に敗れる)、説法頭巾たちを、時に哀愁まで漂わせて描き出しています。時代劇にも特撮にもいなかった、頼りになる等身大のシン・ヒーロー!(は、言い過ぎ?)
また、『長全寺』は先述の成り立ちから、ほぼほぼ全編柏市で撮影されています。柏市と言えば、かつて“日本一汚ない湖沼”として社会科の授業で学んだ手賀沼が有名かもしれません。ですが“この汚かった沼が(水質改善で)変わったように、人の心も変われる”という物語の本質に紐づけて映し出される展開は、ロケ地の由緒を上手に取り入れていて見事です。
この映画に出会い、あらためて感じたのは、大作映画や配信作品とは異なる、映像作品の“地産地消”の可能性です。千葉県では、長年赤字経営で苦しむ銚子電鉄が『電車を止めるな!』(20)を手弁当で制作、地元や各地のイベント上映で話題を呼びました。エンターテイメントの括りでは小さな話題かもしれません。もちろん少しでも市外へ広がってもらいたいはずですが、市内で広く知ってもらい、観て、楽しんで、地元の魅力を共有し、語り継ぐ文化も大いに成立するのではないでしょうか?
特に『長全寺』もですが昨今ではクラウドファンディングを通して賛同者が結びつき映画化が実現するケースが見受けられます。「地元でこんな映画を見たい!」という思いを結実するチャンスは確実に増えてきています。ここに地元の映画館やイベント施設が加わることで、“ここでしか見られないもの”というプレミアム感も生まれます。
『長全寺』の上映も柏駅に隣接した映画館で、年明けて1月13日(金)までの期間限定で上映され、その後の上映&配信等は白紙とのことです。地元での縁や口コミで鑑賞される方もいると思いますが、映像作品の“地産地消”の可能性を少しでも感じていただくという意味でも、異色の僧侶エンターテイメントとしても市外の方々にもおすすめですよ。
そういえば、映画「長全寺」は13日の金曜日に公開終了…と思いきや、異教のあの方の如く甦り20日まで上映延長が決まったそうです。これはおめでたい。ちなみに写真は先週、所用の途中で初めてお参りしたご本堂と、頂戴した御朱印です。#寺社 #御朱印 #映画 #ロケ地 pic.twitter.com/NYMKuulnuu
— おーば@ファクトリアル(編集・企画の人) (@OverOsgt) January 15, 2023