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半世紀を生き抜いたこの世でひとつの椅子に、さらに自分の手を加え育てていく

半世紀を生き抜いたこの世でひとつの椅子に、さらに自分の手を加え育てていく

この記事では椅子の話をしたいのですが、この椅子を紹介するには結構長い前置きが必要になるかもしれません。というか、説明したいのでさせてください!

自分が会社員として働き始めた15年ほど前、休日は自転車で都内の雑貨屋さんや喫茶店、カレー屋さん、展示、ライブなどを仕事より綿密にスケジュールを組んで回っていました。

行く場所は主にSNSや雑誌などで情報を収集していましたが、2009年に雑誌Penの紙面でDJである沖野修也さんが紹介していたお店が目に留まりました。それがこの椅子を買ったコウモリヤさんとの出会いです。

写真を見た感じ、雑貨屋でもなく骨董屋でもなくギャラリーでもなさそうな、へんちくりんな内装だったことを今でも覚えています。※写真にはこちらのページの真ん中の細長い地球儀が連なったオブジェのような家の柱のような作品のようなもの笑がうつり込んでおり、興味ひかれたのです。(左下の写真もそうですね)

https://sites.google.com/view/koumoriya/shop

「なんか今までに出会ったことのないお店かもしれない」と。

コウモリヤさんのウェブサイトを見るとトップページには「“Koumoriya”は、とらえがたい。」と書かれており、まさにその通りのお店なのです。

https://sites.google.com/view/koumoriya/home

実際にお店に行って、そのなんとも表現しがたいお店のコンセプトと、店内に置かれている謎の物体の数々に魅了され、そしてふらっと店の奥から現れた店主の伊藤弘二さんとも意気投合し、行くたびにかなりごちゃついた狭い店内(失礼)にだいたい1時間以上、時には3時間くらい滞在し、コーヒーを出してもらったり、それを出してもらったからには次に行くときにはその当時勤めていた会社があった学芸大学で評判のいいパン屋さんでパンの差し入れを買って行ったり、買ったものについてメールでもやりとりしたり、実は伊藤さんがすごい人で東京芸大の油絵科卒で映画キル・ビル(個人的に一番好きな映画)でも美術を担当した種田陽平さんとお仕事をされていたり、その関係で三谷幸喜作品の美術にも関わられていた(清須会議の絵巻物アニメーション原画や素敵な金縛り)ことを知ったり、伊藤さんがいないときには奥さんが店番をしており、奥さんとも仲良くなったりなどなどしながら、

花瓶のようなもの

昭和時代?のNational製フロアランプ

謎の4本脚がキモ
上から見ると音楽系の機材感あり。市松模様もよろしい。NATIONALのロゴ配置も完璧
和紙がはってあり、電気をつけるとちょうちんのようなあたたかみでほっこり

コップ

絶妙なピンクオレンジの色が入っており美しい~!!!シェイプやガラスの薄さもいいんです

などを買いながら、伊藤さんの審美眼にひきこまれていきました。

コウモリヤのオリジナルプロダクトが発売されるとの報を受ける

2013年のある日、伊藤さんから「ついにコウモリヤオリジナルのプロダクトができます!」とメールをもらい、見てないのに「買います」と連絡。(実際にそう連絡したか記憶にないですが、それくらいの絶大な信頼)

で、

財布(下のポストの右側のもの、こちらに新品の画像あり。コウモリヤさんは財布とは言わずに「革のcase」と言っているのが狂気的で好き。実際ポケットにちょうど入らないくらいの大きさ)

名刺入れ

を買い、その後もコウモリヤさんのオリジナルプロダクトとして

手ぬぐい

結構使ったので色褪せ気味

ハンカチ

模様と色が美しい~。もはや作品

などを買いました。(ハンカチは椅子より後だったかもですが)

そしてその日もいつものようにふらっとお店に寄ってだらだらと伊藤さんと話しながら店内を見ていたら、カウンター的なものの横に折りたたまれた何かがありました。その何かが今回ご紹介したいこの椅子です。

すき!

開いてみると、その存在感、フォルム、そしてかわいいテキスタイル。ひとめぼれしてしまいました。

座面の裏にもぬかりなし!お店ではこの姿を見て「おや?」と思ったわけです
ひじ掛けの曲線美~~~!

聞くと骨董市で見つけてきたものでマルニ木工のもの、それにさらにコウモリヤさんとcoccaさんというテキスタイルのブランドが組んで作ったオリジナルのテキスタイルを組み合わせて作った椅子だというではありませんか!

素人目にも手が込んでいるのは分かりますが、ゴブラン織りというものらしいです

当時の自分からしたらそれなりのお値段だったのですが、骨董市でしか見つからないようなヴィンテージもの、かつ、大好きなコウモリヤさんが作ったテキスタイルがふんだんに使われていてこのお値段!!!!!そして何より伊藤さんの眼で選ばれ、そして作られたもの!安い!!!と思い、その場で「これって買えるんですか?」と聞き、「値段は一応つけてるんですがまだ売るか決めてないので、もし稲垣さんに買っていただける場合連絡しますね~」とだけ話していただき連絡を待ち、後日ついに買えることになったのです!

大満足の買い物をして、毎日それを使い、眺めることができる幸せ~~~!!!納得したものは高くても買う、これが一番ですね。

購入後、月日が流れて・・・

そして月日が流れ、ヴィンテージものとして使い始めた椅子にもややがたつきや汚れが気になり始めた2022年、椅子の製造元であるマルニ木工のメルマガを見ていたら、ヴィンテージ椅子の修理を始めたと。「この椅子を修理したらどうなるんだろう」「もっと長くこの大好きな椅子を使うためには今修理した方がいいのではないか」と思い、頼みたいなあでもマルニ木工の店舗に持ち込むには大きいし、店舗は馬喰町で遠いしなあ、と思っていました。

そんな折に、マルニ木工が伊勢丹でファッションブランド nonnativeのプロデューサーである藤井さんとコラボしてマルニ木工のヴィンテージ商品を修理、メンテナンスした商品を展示する催事『RE-INNOVATION – 家具再生の新しいかたち-』が開催される、と知りました。

展示の背景についてはこちらのマルニファニシング(マルニ木工の修理専門の会社)の記事に詳細がありますのでぜひ~。

https://store.maruni-furnishing.com/view/page/column_production_note1

その展示でマルニ木工の修理相談カウンターもある、とあったので、「展示を見に行きながら相談しよう」と思い立ちました。

伊勢丹で展示を見つつ、おそるおそる修理相談カウンターの方にお声がけしてみると、いかにもお上品な対応。すてき。好き。好(ハオ)。

行った当時のポストはこちら。

撮ってきた椅子の写真を見せながらお話ししていると修理相談カウンターの方が「かわいいテキスタイル~!!」「これは孔雀マークのオールドマルニでかなり希少。この状態で使われているものはわたしもめったに見ることがありません」などと言われ図に乗り、まんまと修理の申し込みをしたのでありました。※もともと頼みたかったのと、思い入れのあるものにはこれくらいの勢いが必要ですよね!(自分の納得度を増すための言葉)

まあそんな希少な椅子であることを奥さんに今さら共有したら「今まで雑にがしがし掃除機を当てたりしてたけどやりづらいな」と言われたりもしましたが。

修理の過程では、メーカーの修理の方とも電話やメールでやりとりをして、

・この椅子自体はロゴから見るに1952年~76年の製造されたもの

・ブナ材(ビーチ材)

・古いもの過ぎて、もはやメーカーにもこの椅子に関するデータがない(なので、修理も手の込んだ部分は下手に手を出せない)

などの情報をいただきながら、修理が完了。

いわゆるオールドマルニの孔雀ロゴ
特許番号も入ってるので詳細が分かりそうな気もしましたが分からず

職人さんたちを困らせながらも、仕上がりはマルニ木工の名作椅子である、深澤直人が生み出したHIROSHIMAを感じるようなすべすべな仕上がりで大満足。色も少し明るくなり、今の時代っぽく、部屋にもなじみやすい感じで新品同様に生まれ変わって帰ってきました。(ビフォーアフター写真がなくてすいません!実は冒頭の方の写真もメンテナンス後)

マルニ木工の担当の方からは「これでまたあと50年使えますよ!そのときはまたうちにお持ちください」と言っていただいたり。

そして何より、マルニ木工で50年以上前に作られ、コウモリヤさんによって発掘され、手を加えられたものに、自分の意志でさらに手を加えてまた一段と愛着の湧くものになったことがうれしいのであります!

この椅子を将来、自分の子ども(現在2歳)が巣立っていくときに渡してあげられたら、気に入ってくれるかな?などと思いつつも、いや、思い入れが強すぎてそもそも渡さんのかもな、とも思ったりする次第です。

以上、稲垣でした。

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