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公開10周年
介護ロボットとしてのベイマックスの実現性

公開10周年<br>介護ロボットとしてのベイマックスの実現性

10年間で、ふわもこ愛されキャラとして定着

2024年はディズニー映画『ベイマックス』公開10周年。近ごろ、そのお祝いムードを盛り上げる展開を見受けられる。5月3日からはセブン-イレブンでぬいぐるみやフィギュアが当たるHappyくじを実施。また、赤ちゃんの記念撮影などで知られるスタジオアリスは、ベイマックスと記念撮影できるサービスを始めたそう。

株式会社スタジオアリス プレスリリース(PR TIMES)より

もともと『ベイマックス』は、マーベルコミックの「BIG HERO 6」を基に着想された作品。近未来都市“サンフアンソウキョウ”を舞台に主人公の青年ヒロと仲間たち、そしてヒロの兄タダシが開発した“ベイマックス”が活躍するヒーローアクションだ。

2014年当時の『ベイマックス』本予告編

すっかり“ふわもこ愛されキャラ”として定着しているが、ベイマックスは本来、本予告編で自身が話すように“ケアロボット”。そこで今回はベイマックスについて、介護領域での将来的な実現性(または空想・妄想)視点で考えてみた。

ケアロボットとしての性能は、実用化清み?

心と体を癒やす目的で開発されたベイマックスは、高齢者・障碍者に特化せず、誰もがケアの対象。劇中でもヒロの心をケアし、身を危険から守る。切り傷、擦り傷などを治療でき、AED機能まで備える優れもの。

対象をスキャンし脳波や心拍数、血液の分析、メンタルやストレスの状況把握もできる。これなら血圧、眠りの深さ、尿意・便意などを測る確立済のセンシング技術なんて搭載清のはず。なので、10年前に想起された機能の一部は、既に実用化されていると言える。

『ベイマックス』英国向けのプロメーション映像はケアロボットとしてのCM風

マシュマロのようなフワッとボディは対象を不慮の衝突、墜落からも守るエアバッグ(またはエアフロート)的な役割を果たし、体を発熱させて対象を暖めることもできる。もちろん人を持ち上げ運ぶ介助もおまかせだ。

そんなベイマックスの身長は約183cmで、体重はなんと34kg! 実はふんわりボディの内部のほとんどが空気で、活動時以外はコンパクト収納も可能だ。

これらの設定は、監督をはじめ制作スタッフが、米国カーネギーメロン大学の”

ソフトロボティクス”が発端。同大学はソフトロボット実用化を目指し研究・開発が進められ、なかでもクリス・アトキンソン教授は“ヘルスケアロボット”としてのベイマックスへ並々ならぬ思いを抱いてい。

2021年に撮られたアトキンソン教授のコメンタリー(日本語訳設定推奨)

リアル“ベイマックス”実現への挑戦

ベイマックスのように優しく、滑らかに、柔らかく接するソフトロボットの研究は、国内外で長年進められている。それらの事例を少し調べてみた。

『ベイマックス』公開の翌2015年。日本の理化学研究所(理研)は、人と柔らかく接しながら力仕事を行うロボットの研究用プラットフォーム「ROBEAR」を開発。当時の報道では“リアル版ベイマックス”と話題を集めている。

理化学研究所(理研) プレスリリースより

最近では、介護領域ではないもののブリヂストンがソフトロボティクスに注力し、物流現場でのピースピッキングの実証実験を行っている。アームの動きの柔らかさの見事たるや!

一方、カーネギーメロン大では昨年、3Dプリンターを用いてローコスト開発&人間の手の動きを細やかに再現、作業が可能なロボットハンド「LEAP Hand」を開発している。

ここまで滑らかな動作が可能になると、ベイマックスの「バラララララ~」なら余裕で再現できそう。

※3/29補記)

なんと、トヨタもこんな感じの“ぷにょぷにょロボット”を開発している模様。

“抱きしめられる”より“抱きしめる”ロボット?

とはいえ、介護領域は機能や役割を特化させたロボットの導入が進行中で、こうした新たなロボットがどのように求められるかは見極めが難しいだろう。しかし、ベイマックスの愛らしさ×既存のテクノロジーの別アプローチなら、今すぐにでも実用化できるのでは?

『ベイマックス』はTVシリーズも製作されていて(ディズニープラスで視聴可能)、そちらではベイマックスの簡易版のような“ミニマックス”が登場する。

この“ミニマックス”、アメリカでは20以上の会話トーキングフィギュアとして商品化されているのだろか。しかもバンダイの現地法人の商品だとか!

米Amazon内 商品ページより(現在は販売終了)

現在、高齢者向けの話し相手として抱きしめられるサイズの会話ロボットは既に商品化され、一部では自然な会話のやり取りのほかに歌やダンスを披露する機能。さらには脈拍などを測定できる会話ロボットも登場している。抱きしめられるサイズ感で、利用者に安らぎを与えてくれる役割も果たせそう。

3月開催の「CareTEX 2024」ではこのようなロボットも!

こうした機能を取り込んで、今後ディズニーやバンダイがコミュニケーションや基礎的な測定に特化した介護ロボットを市場へ投入する日は、“リアルベイマックス”投入よりも早く訪れそうだ。

“心の機微までわかるロボット”が生まれる日まで

『ベイマックス』は公開当時、医療・介護関連の方々にも印象が深かったらしく、検索をかけると映画きっかけで未来の介護へ思いを馳せた記事も多数見受けられる。

そのなかから熊本大学の安東由喜雄名誉教授のエッセイが心に沁みた。介護ロボットへの思いを『ベイマックス』に重ねた、その一部を最後に紹介させてもらいたい。

“老人の孤独死が多い中、本当に必要なロボットはそうした一人暮らしの老人の話を聞き、心を癒してくれるロボットなのかもしれない。一人ぼっちになってしまった母を見ていてもそう思う。この映画ではベイマックスが、人間の感情を完璧には理解できていない姿がうまく描かれている。だから最後の別れも決してじめじめしたものとしては描かれてはいない。今のスピードでロボットが開発されて行っても、心の機微までわかるロボットが作られるようになるのは随分と時間がかかるのかもしれない。”(熊本大学脳神経内科 安東由喜雄エッセイ 「ベイマックス」-介護ロボットより)

安東教授の投稿から9年。心の機微までわかるロボットの実現はまだ先でも、その日は着実に近づいている。

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