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行動に移せる場所にいたことが想定以上の結果を生むことがある

2011年3月12日の夜、その頃一緒にiPhoneアプリを作っていたフォトグラファーとエンジニアとデザイナーに一本の相談メールを出した。

 

「俺らが作っているアプリに、ちょっと手を加えてチャリティができないかと思っているんだけど、どう思う?」

 

3人からは、すぐに「やろう」と返事がきた。そんな味方を得て、その日のうちに、2人のレーシングドライバーのマネジャーにメールを飛ばした。

 

 

当初僕が考えていたのは、それほど大きなことではなかった。2人のレーシングドライバーの写真集アプリを数ヶ月前にリリースしていた。そこに後付けでメッセージムービーをつけさせてもらい、その分からの売上を寄付しようというものだった。

 

2人のうち1人からはすぐに返事がきて、ムービーを撮影する段取りもサクサクと決まっていった。ところがもう一人のドライバーからは返事がない。これはダメかな、と思っていたある日、マネジャーから「それよりも新たに作りませんか」という提案がなされた。しかもその内容は僕らが想定していたよりも、とんでもなく大きなものだった。

 

「今回の震災は世界的なニュースになっている。F1の中でも日本を心配する声は多い。だから自分だけでなく、F1に参戦する全てのドライバーに協力してもらい、アプリを作ってはどうか」

 

僕らは腰を抜かした。でも、これはやるしかないよ、と覚悟を決める。企画書を作り、それを英訳してもらい、僕らの仲間で現地で撮影しているフォトグラファーに託す。するとそのフォトグラファーが、レース前に行われるドライバーズブリーフィングに出席。橋渡しとなってくれたドライバーとともに企画の説明をする。

 

・アプリは全世界で販売。価格は全世界で最も安い金額とする。

・ドライバーとスポンサーには契約があるから、販売は2011年シーズン最終戦の決勝終了までとする。

・アプリの売上は販売手数料を除き全額を寄付する。

 

これらがあっと言う間にまとまり、すぐさまアプリの製作が始まった。内容は基本的に写真集。当時F1に参戦していた全てのドライバー、全てのチーム代表に日本に向けたメッセージを手書きで色紙に書いてもらい、それを手にした写真を掲載する。

 

するとこのアプリのことはすぐにパドック中の知るところとなり、チーム関係者のみならず、他のF1関係者も協力してくれることとなる。例えばドライバーのパートナーのスーパーモデルや、すでに引退していて、たまたまパドックを訪れていた往年の名ドライバーなどなど。もちろん、そんな大物ばかりではなく、レース運営に欠かせないコースマーシャルやチームのメカニックたちなど、本当に多くの関係者が協力してくれた。

 

確かそういう素材集めを2回のレースで行ったと思う。その全てを僕らの仲間のフォトグラファーが仕事の合間を縫って一人でやってくれた。

 

日本にいる僕らは、受け入れる準備。手書きで書かれたメッセージをタイプし、日本語に訳す。こちらも本業の傍らで空き時間を作って、少しでも早くリリースするために製作を進めた。

 

そうして5月の連休明け(だったと思う)にリリース。アプリのタイトルは「You are Connected」。F1界をつなぐために尽力してくれたドライバーがつけてくれたタイトルだ。

 

今もまだネットで検索すると、当時のリリース記事がいくつか残っている。

 

www.appbank.net

 

f1-gate.com

 

www.f1-life.net

 

痺れたのは、このアプリの販売リリースを、F1の全てのチームが、その公式HPで同時に配信してくれたことだ。各チームの公式HPのトップページに、僕らのアプリの最初のページが映し出され、日本のためにこれを買ってチャリティに協力して、と言う呼びかけが一斉に始まった。それを見た時は本当に痺れた。

 

そして僕らはこのアプリで世界中から善意のお金を預かることができ、その年の暮れに日本赤十字に寄付を行ったのだ。

 

もしかすると同じようなことを考えていた人が他にいたかもしれない。でも、それを僕らができたのは、思ったことをすぐに行動に移せたからだし、それができる場所にいたからだ。普段、僕はあまりスピーディーな判断ができる人間ではないのだけれど、この時はちょっと違ったみたい。前日の午後から考えることが多すぎて、それが24時間くらい経った時に、「何ができる?」となった。

 

その時に武器を持っていたこと。

その武器を一緒に作る仲間がいたこと。

思いをさらに拡大できる人とつながることができたこと。

いろいろな偶然が重なることで、当初思っていたことよりも大きな仕事ができた。

 

レースを見ていると、終盤までトップを走っていたドライバーにアクシデントが起きて2番手だったドライバーが優勝するというケースがある。それを評して、「労せずして」とか「ラッキーだった」というのは簡単だけど、本当に運が良かっただけだろうか。

 

彼は2番手というポジションにつけるために努力をしていた。もっと言えば勝つための努力をし続けてきた。その結果、いるべきタイミングに、そこにいることができたのだと思う。

 

多分、普段からの積み重ねがあるからこそ、訪れたチャンスを逃さず、すくい上げることができるのだ。

 

 

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