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真顔がキメ顔|ディラン・マクダーモットのドラマティックなかっこよさにしびれっぱなし

真顔がキメ顔|ディラン・マクダーモットのドラマティックなかっこよさにしびれっぱなし

出会いは傑作法廷ドラマ「ザ・プラクティス」の弁護士ボビー・ドネル

今や配信ドラマで海外ドラマもあふれかえっている時代だが、私が本格的にその魅力にハマったのは、20年以上も前のことだ。

深夜のTVだったのかケーブルで観たのかは忘れたが、社会人となってから、終電帰りが当たり前となった忙しい日々の中で、1話1話を噛みしめるように観て夢中になった法廷ドラマ「ザ・プラクティス」(97~04)。

金なし、名声なし、でも情熱だけはある、という若き弁護士たちの奮闘をつづった、内容としては特に珍しくない“定番”のドラマだが、私にとって一番の魅力は、主人公のボビー・ドネルを演じたディラン・マクダーモットだった。勝訴のためなら強引な手を使うこともいとわず、正義のためなら相手かまわず立場状況そっちのけで猛進する。

自信家で情熱にあふれたキャラクターそのものがかっこいいのは言うまでもないが、シンプルにいえば、ディランのルックスが私のタイプど真ん中だったのだ。

すらりとした長身にベタつくほど甘いマスクのイケメンで、濃密なフェロモンがワイルドとセクシーをいったりきたり。そしてなんといっても、ブルーの大きな瞳と、射るような鋭い眼差し。画面に出てくるたびに「かっこいい」と声に出してしまうほどで、たまに観返す今でも、そのときめきはかわらない。

シーズン8まで作られた「ザ・プラクティス」は、いまなおヒットシリーズを生み出し続けるテレビ業界の大御所で、脚本家でもあるデビッド・E・ケリーの企画・製作ものだ。

自身が弁護士だった経験を活かして数々の法廷ドラマを生み出したケリーは、「ザ・プラクティス」と同時期に「アリー my Love」(97~02)も手掛けた。ヒロインは自意識過剰で妄想好きな弁護士アリー。硬派なボビーが主人公の「ザ・プラクティス」とは対照的にユーモアもたっぷりのライトなテイストだったが、生みの親が同じだったことで両シリーズがクロスオーバーすることもあり、そこでボビーとアリーが恋愛関係になるエピソードもあった。

2作品とも観ていた私にとっては興奮もので、夢のカップルの恋模様にドキドキさせられたことを思い出す。彼らの2ショットが表紙を飾ったテレビ誌「The Entertainment Weekly」を、しばらく家に飾っていたことも…。

ディランのデビューは、ベトナム戦争をリアルに描き、21年にリバイバル上映がされた戦争ドラマ『ハンバーガー・ヒル』(87)。その後、美容院を舞台に女性同士の友情や絆を描く傑作『マグノリアの花たち』(89)でジュリア・ロバーツの相手役を演じてナイスガイぶりを見せつけ(当時、ジュリアとは本当に交際していたとか)、『ザ・シークレット・サービス』(93)ではクリント・イーストウッドの相棒を演じて注目された。「ザ・プラクティス」でスターの座を確立した以降はそのままTVでの活躍が多くなり、「ザ・グリッド」(04)のFBI捜査官、「DARK BLUE/潜入捜査」(09~10)の潜入捜査官と、英雄的なキャラクターが続く。

“アメ・ホラ”でダークな世界観に没入

そんな彼がひとつの転機を迎えたのは、2011年の「アメリカン・ホラー・ストーリー」、通称“アメ・ホラ”だ。大ヒット学園ミュージカルドラマ「glee/グリー」(09~15)で名をはせたライアン・マーフィーによるエロティック・スリラーで、現在も継続しているアンソロジー・シリーズの記念すべき1作目。

亡霊が住み着く古い屋敷に越してきた一家の受難を描くこの作品で、ディランが演じるのはセックス依存症の精神科医。教え子との浮気が妻にばれて関係を修復中ながら、メイドによからぬ妄想をめぐらせたり、教え子の誘惑にくらくらしたりと、なかなかの淫らさで、裸体も惜しみなく披露する。観始めたときは「ザ・プラクティス」のボビーとのギャップに軽い衝撃を受けたが、いつしかエログロでダークな世界観にも決してうもれないかっこよさにほくそ笑む。

シーズンを重ねることに過激さを増す“アメ・ホラ”では、ほかにもシーズン2「精神科病棟」(12)、シーズン8「黙示録」(18)、シーズン9の「1984」(19)、スピンオフの「アメリカン・ホラー・スト―リーズ」(21)にも顔を見せる常連となった。

“アメ・ホラ”でダークな役柄に境地を見出したディランは、その幅を広げていく。『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13)ではテロリストに寝返ったシークレットサービス、「HOSTAGES ホステージ」(13~14)では大統領殺害をもくろむワケありのFBI捜査官。だんだん複雑なキャラクターを演じるようになった。

そして、真のヤバい奴を演じてヒールっぷりを前進させたのが『クローブヒッチ・キラー』(18)。16歳の息子から連続殺人鬼の犯人を疑われる父親役で、一見は敬虔なクリスチャンでボーイスカウトの団長も務める名士だが、息子に猟奇的なポルノ写真や雑誌を隠し持っているのを見つかって…といういかがわしさ満点のキャラクター。役作りのためだろう。

ぼてっとしたお腹に、薄毛で広くなった額、もじゃもじゃのヒゲでイケメンぶりを封印。女ものの下着や洋服を身に着けて興奮するなどで男の倒錯ぶりを怪演し、これまでにないディランの気合が伝わってきた。が…、作品はスリラーとしての描きこみが足りず、なんとも中途半端な出来に。まったく、ディランさまががんばったというのに…!

弁護士、捜査官、シークレットサービス、テロリスト、精神科医。シビアな状況と隣あわせにいる役柄ばかりなのは、ルックスのせいなのかもしれない。

まなざしが鋭すぎて、おのずと緊迫感を生み出してしまうのだ。真顔はつねにキメ顔になり、そこから汲み取れる自信は、英雄にもヒール役にもいかんなく発揮される。

出演作のなかでも数少ないコメディ『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』 (12)では、主演のウィル・フェレルとザック・ガリフィナーキスたちによる熾烈で下劣な選挙戦を支える敏腕選挙参謀を演じたが、おとぼけの2人に比べてディランはいつも通り。

黒革のジャケットを身にまとった姿は、立っているだけでサスペンスになる。かわいいおじさまたち=ウィル&ザックとの対比もありすぎて、ゆえにコメディになっていたのが面白い。

これまでもこれからも…犯罪捜査ドラマにディランあり!

そして数々の布石を経て、これぞヒールというべき悪を演じているのが「LAW & ORDER:組織犯罪特捜班」(21~)だ。アメリカのドラマを語る上では欠かせない一大フランチャイズの「LAW & ORDER」シリーズだが、そのなかでも、最長の放送歴を誇る「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」(99~)のスピンオフ作品。しかも人気キャラクターの捜査官エリオット・ステイブラーが10年ぶりに復活、と前提も多い話題作なのだが、ここでディランはエリオットの強敵となるサイバー・マフィアのリチャード・ウィートリ―役を演じている。

捜査官たちが「賢くて危険」と称するウィートリー。表の顔は成功した実業家で、大豪邸に住み、高級な洋服を身にまとうダンディで洗練されたおじさま。しかしその裏では、違法薬物の巨大ネット帝国を築き、殺人、暴行、横領などなんでもありの恐ろしい男。エリオットとの攻防戦を繰り広げるなかでも、ウィートリーの自信と余裕と貫禄は揺らぐことがない。

大物感あふれるこのヒールこそ、これまでのディランのキャリアを存分に詰め込んだかのように頼もしく、「待ってました!」と叫びたくなるハマり役。「ザ・プラクティス」から20年余り。善から悪へと役柄の立場は変わったが、犯罪捜査ドラマにおいての悪役は、いわば陰の主役。主人公の捜査官が歯ぎしりするほど手ごわい相手で、憎らしければ憎らしいほど、ふてぶてしければふてぶてしいほど、その存在感は増していく。

もちろん、ここでも自前のキメ顔をさく裂させており、またしても出てくるたびに「かっこいい」とつぶやいてしまう始末。ああ、ワルい奴なのに…。これからさらにヒール役を突き詰めるのも楽しみと思っていたが、現在アメリカで放送中の「FBI: Most Wanted~指名手配特捜班~」ではあっさりFBI捜査官役に戻っていて、勝手な期待ながらもちょっと拍子抜け。

まあ、きっと彼はこれからも様々な肩書をとっかえひっかえしながら犯罪ドラマを渡り歩いていくのだろう。

ディランのドラマティックなかっこよさは、私にとってのカリスマ。何を演じてもときめかせてくれるはずだ。

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